あの切なさは一体なんだ

 「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」の特別上映を観に行った。上映されていたというのも、実はいつだったのか覚えていない。上映期間がとっくに終わってから、何かの本で読んでこういう映画があると知ったはず。だからとても楽しみだった。映画がはじまっていちばん最初に流れてきた曲に、聴き覚えがあった。曲の名前すら知らないけれど、絶対にどこかで聴いたことがある曲だった。これがキューバ音楽だったのか、とそれだけで引きずり込まれた。どう贔屓目に見ても老人というしかない年齢の人たちが、その年齢を感じさせないほどいきいきと楽器を演奏し、歌い、語る。この映画の中に出てくる人たちは、もうみんな90歳近い。それでもあのパワフルな演奏ができるのはすごい。みんなキューバ音楽が好きで好きでたまらないのだ。そういう感情がスクリーン越しに伝わってくる。楽しいのにどこかもの哀しく、郷愁を誘い、はじめて聴いてもなんとなく懐かしい音楽がキューバ音楽なのだ。1回は音楽をやめた人もいる。歌に絶望したと言い切る人もいる。でも、みんな音楽を捨てきれずに戻ってきた。そしてこんなにすばらしい名演奏を残した。そのことに単純に感動する。音楽を聴いているだけでぞわぞわと鳥肌が立ち、なぜか切なさがつのってきて自分でも不思議だった。