それぞれの生活

 江國香織『薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木』を読了。この本も何回読んでいるかわからないくらい読み返している。いつもそれほど登場人物が多くない江國さんの本にしては、9人の女性が登場するこの本はちょっと珍しい。でも、その9人の女性についても、どんな人なのかがはっきりわかる。輪郭をそのまま書くのではなく、後ろから光を当てて輪郭を浮かび上がらせるという感じ。そしてその9人が、どこかでつながりを持っている。結婚していたり、家庭内別居の状態だったり、不倫をしていたり、離婚するつもりだったり、心持ちはいろいろだけれど、そのどれもが自分でも思い当たるような気がするから、江國さんの表現力はすごいと思う。9人のうち、誰かには感情移入できるはず。特別ドラマティックなわけでもなく、それぞれの生活の中で変わったり変わらなかったりするものを書いているだけなのに、それがとても親しく思えるのはなぜだろう。かなり好きな作品のひとつ。