記憶と香り

 小川洋子『凍りついた香り』を読了。小川洋子は、ごくごく最近になって強烈に読みたいなあと思った作家(『博士の愛した数式』を読んでからだからほんとにごく最近)。なのでマーケットプレイスで頼んで取り寄せた。一緒に暮らしている人が突然前触れもなく死んでしまったらどうしますか、という問いかけに私は答えられない。ただ半狂乱になって泣き暮らすか、感情が壊れてしまって何にも考えられないままにぼんやり暮らすかのどちらかだと思う。どうしてその人が死んだのかということを追いかけるのには気力が必要だもの。でも、この本の主人公の涼子はそれをしっかりと成し遂げている。弘之の実家まで行き、最後にはプラハまで足跡を追いかける。そしてその理由がはっきりつかめたかどうかはわからないけれど、そこまでして理由を追いかけたい人がいるということだけでもう私には涼子は幸せな人に思える。それにしても、記憶と香りの結びつきにはしばしば私は動揺させられる。私の記憶も、誰かの頭の中に私の使っている香水と一緒に閉じ込められたりしているんだろうか。